1台目の シャープ 5F-132 で真空管ラジオのレストアの楽しさ
にハマってしまい、すぐに入手した2台目。Zenith社製で AM
・FM 2バンドの Y723。Made in USAです。実は 5F-132を
買った同じ骨董屋で、その隣に並べてあったものなのです。
下の写真はその骨董屋での様子。周りの古書籍とは この上なく
ミスマッチです (クリックで拡大できます) 。Zenith社は世界
で初めてFM放送システムを確立させた会社です。これも1956
年製なのですが、この年には未だ日本ではFM放送は始まって
いません。

左右非対称性を強く印象付けるよう配置された大きなダイヤル!
同年代の日本製とは明らかに異質な、シンプルかつ大胆で斬新
なデザインに惹き付けられたのですが、一寸気になったのが
FMの周波数範囲。上の写真を良く見ると分かるのですが、米国
国内仕様と見えて88~108MHz。近年始まったAM局のFM補完
放送 (所謂ワイドFM) には良くても、従来の日本のFMの主たる
76~88MHzが受信できません。少し躊躇しましたが、アール・
デコ調デザインの魅力に負けて、購入してしまいました。値札
はこれも 5F-132と同じく ¥5,000でした。
回路構成もかなり独特で、6BJ6+12AT7+12BA6×2+12AU6
+19T8+35C5 の7球、B電源はセレン整流器となっています。
なお 日本の方がライン電圧100Vと低いので、35C5は 30A5に
交換しました。また セレン整流器も劣化の可能性を考え、Si
ダイオードに交換しました。

さて FM受信周波数の改造ですが、Zenith社のFM同調回路は
バリコンではなく、コイル側でインダクタンスを変える μ同調
方式になっています。下の写真で緑矢印のレバーが AM用バリ
コンの回転軸とリンク機構で繋がっていて、青矢印のコイル
2本 (選局&局発) のフェライトコアを同時に上下させます。
周波数のシフトは同調用コンデンサの容量upで行いました。

ちなみにAM側の受信コイルは、筐体裏ブタに直接貼付けられた
室内アンテナ兼用ループアンテナになっています。外部アンテナ
端子は無いので、感度不足を補いたい場合は、この上に何ターン
かリード線を巻いてカップリングさせ、その一端を引き出して
外部アンテナに接続します。

不具合個所の修理にはこの上なく苦労しました。最初何とか受信
していたものが、不再現で鳴らなくなってしまったのです。何を
しても全く鳴らない、というのは始末に負えません。何の情報も
取れず、不具合個所の特定が進まないからです。そんな中やっと
のことで見つけたのが IFT (中間周波数トランス) 。写真に記録
していないのですが、Zenith社製の IFT は大変オリジナルな
構造をしていて、同調用の小容量コンデンサにディスクリートな
市販品のコンデンサを使わず、薄いマイカ (雲母です) 板の上下
に銀を蒸着して電極にしたものを使っています。このマイカ版に
小さなヒビが入っていて接触不良を起こしていたのでした。長く
なるので詳細は割愛しますが、修復方法にも大変な工夫が必要で
した。
不具合個所の修理とFM受信周波数の改造、筐体の清掃&磨きを
終えた現在の状態がコチラ。


元々の焦げ茶色ベークライト製筐体の上に、新しい周波数目盛り
(76~93MHz) をプリンタで同じ色に似せて印刷し、貼付けまし
た。下は 地方のコミュニティFM局に多い76.2MHzから、上は
関東地区であればFM補完放送は TBSの90.5MHz、文化放送の
91.6MHz、ニッポン放送のの93.0MHz が受信できます (これ
より上、栃木放送の94.1MHz等は不可) 。
もう一つオリジナルには無かった改造が "パイロットランプ"。
筐体のスピーカー側ではない白メッシュ部に小さな穴を開けて
ネオン管を取り付けました (下の写真の青矢印) 。

Y723はFMの中間周波数増幅が3段 (12BA6×2+リミッタの
12AU6) もあるので、コンパクトラジオにしては感度も中々
良く気に入っています。但し プラスチック筐体なので、音量
を上げ過ぎるとビビるのだけは難点ですが。